中川八洋掲示板

世界の現状は、日本の国家安全保障の危機を加速しています。この急迫の時局において、刻々と変遷激しい国内外の事態を冷静に俯瞰できる力を与えてくれる、大容量の真正の知識こそ、いまの日本人に必要なものです。当ブログは、国際政治学者・中川八洋筑波大学名誉教授の個人ブログです。

バタイユ教徒・三島由紀夫と“双曲線分裂の天皇観”

筑波大学名誉教授  中 川 八 洋

 今朝、我が作業室の書庫で、偶然に「三島由紀夫コーナー」にふと目がいった。何かな、A4一枚のワープロ書きがあるぞと手に取った。『徳仁《新天皇》陛下は、最後の天皇』357頁に追加挿入する予定の自分の原稿ではないか。さる7月、「長すぎるから半分カットせねば」「しかし、今は時間の余裕がないから、あとにしよう」と、こんな所に置き、忘れてしまった。

 この稿はいずれ、『徳仁《新天皇》陛下は、最後の天皇』の重版で357頁に挿入される。が、それは、カットされた半分を誰も見ることがないということ。『徳仁《新天皇》陛下は、最後の天皇』の、今の読者に供すべく、カット前の粗稿を、以下、掲示しておきたい。                 

(11月5日)                         

(附記) 『元旦詔書』を「人間宣言」に曲解した三島由紀夫『英霊の聲』

 三島由紀夫は、1966年の作品『英霊の聲』河出書房新社で、昭和天皇の『元旦詔書』を呪う経文「などてすめろぎは人間(ひと)となり給いし」を、「一場」で二回、「二場」で三回、繰り返している。修羅能の様式を借りた小説『英霊の聲』は、恨み節を語る二・二六事件の死刑犯を能舞台の「前(まえ)シテ」に、特攻隊の“英霊”を「後(のち)シテ」に擬している。

 三島由紀夫は、「反共」の旗を揚げたが、単細胞型の浅薄な「反共」だった。マルクス・レーニン主義や「日本の官・政・軍に対するソ連NKGB/GRUの対日洗脳工作」について無知蒙昧なイデオロギー“音痴”/国際政治“音痴”だったから、知の巨大倉庫を頭に乗せている“保守主義の反共”とは程遠い。このため、ソ連大使館スターリン/ベリヤ)に操られ、“昭和天皇殺し”も革命アジェンダだった、共産主義者の叛乱将校の死刑は当然すぎるのに、三島は真逆にも「英霊」だと狂妄する。

 三島由紀夫は、ジョルジュ・バタイユのモチーフ「死」と「エロティスム」に頭をやられ(三島の『憂国』は、バタイユ一色)、歴史知も理性も半ば奪われていた。現実にも三島は、「ニーチェバタイユ」に共振して「(伝統的な既成の)神は死んだ」を信仰し、柿本人麻呂が歌う、神武天皇以来の日本独自の“天皇=現人神アキツミカミ”は「死んだ」と観想していた。昭和天皇を“新しい絶対神(その実、ヒトラー型独裁者)に改造すべき/改造・再生されているはずとの狂信は、この反動であろうか。

 一方、保守主義者で“イデオロギーと国際政治の天才”昭和天皇は、「国體明徴」の「国體」が“マルクス・レーニン主義スターリン独裁体制”の偽装ラベルだと喝破されておられた。昭和天皇が、1946年の元旦、マルクス・レーニン主義が煙草の煙ほども無かった明治時代への回帰を国民に呼び掛けられる形で、「“極左ドグマ”『国體』=スターリンの独裁体制=ソ連に日本国を献上=日本国の消滅」の狂気から脱却せよと、『詔書』をもって国民に檄を飛ばされたのは、これが理由である。

 ところが三島は、『元旦詔書』を、お門違いも甚だしく、「などてすめろぎは人間(ひと)となり給いし」と、“共産党の捏造語”「人間宣言」に同調・曲解する。「ヘルダーリン→ハイデカー」系譜のウルトラ・アナーキズム狂に汚染され(備考)三島由紀夫は“祖国”が剥離された精神の病を発症し、昭和天皇の聖旨を奉じる事が困難になっていた。

(備考)三島由紀夫の『絹と明察』は、「ヘルダーリン→ハイデカー」の闇に沈んだ作品。

 ヘルダーリンアナーキズムは、“廃墟”か“絶対神の独裁者”待望かを内包するから、ためにハイデカーはヒトラーに“救世主の絶対神”を感得し、ナチ党員となった。同様に、三島由紀夫にとっての昭和天皇は、伝統的な日本の“天皇”ではなく、(ゼロにはしないが)それを委縮し後退させ、(結合が抗体反応的に拒否されるから、超現実の妄想でしかない)ヒトラー的“新型の絶対神”に再構築された“架空の天皇”であらねばならなかった。

 妖鬼の群れがあの世で狂舞する『憂国』『英霊の聲』を読むと、私は、草叢で大きな真黒な毛虫をつかんで悪寒に身震いした三歳頃の“怖い体験”を思い出す。三島由紀夫が「バタイユ教徒」らしい自死を選んだ1970年11月末、一瞬は相当に驚愕したが暫らくして落ち着くと、“大賢帝”昭和天皇の“偉大な聖性”が護られたとホット安堵した。(『徳仁《新天皇》陛下は、最後の天皇』、357頁)

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