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中川八洋掲示板

世界の現状は、日本の国家安全保障の危機を加速しています。この急迫の時局において、刻々と変遷激しい国内外の事態を冷静に俯瞰できる力を与えてくれる、大容量の真正の知識こそ、いまの日本人に必要なものです。当ブログは、国際政治学者・中川八洋筑波大学名誉教授の個人ブログです。

安倍晋三よ、直ぐにリトアニアに飛び防衛協力協定を協議し、トランプ・プーチン関係に楔を打ち“分断”せよ! ──12・15日露会談を中止し、日本が世界を“ロシア包囲”に主導する時

筑波大学名誉教授    中 川 八 洋

 本稿は、前稿「トランプ大統領の米国と、《国防第一》に大転換する日本」の続きである。安倍晋三首相が、トランプ次期大統領に会う11月17日(ワシントン時間)前、もし本稿を前稿と一緒にしたのを安倍晋三首相が読めば、必ずや頭が混乱して整理がつかなくなる。だから、安倍・トランプ会談の前と後、それぞれに合わせて前編と後編に分けた。

 もし国際政治学を高度にマスターしている読者であれば、前稿(前編)の末尾にSpykman博士の『America’s Strategy in World Politics』をわざわざ言及していることに気づき、それを“橋”に、この後編が続くのを見抜いただろう。後編に当る本稿を前編に繋がるタイトルに直せば、「トランプ大統領の米国と、世界を“ロシア包囲”に主導する日本」である。

50点(トランプ)は5点クリントンよりはるかにましだが、100点満点からすれば不合格

 いかなる政治家に対しても、投票を含め支持してはならない。政治家を選択するのが、一般有権者の選挙を含めた政治行動であるべき。政治家選択の基準は、「マイナスの少ない方を選択する」である。だが、日本では、“軽佻浮薄なお馬鹿”安倍晋三を熱狂的に支持する民族系の老人たちのように、落ちこぼれ女子中学生の“芸能人追いかけっこ”と同じレベルで、特定政治家に対して《熱烈支持》をする。恥ずかしいと思わないのか。  

 “支持”は政策ごとにするもので、その政治家の外交内政すべてを包括することはできない。「安倍晋三のこれこれの政策は支持するが、これこれの安倍政策は支持できない」が、有権者の正常の範囲にある政治行動である。安倍晋三自民党蓮舫民進党を例とせば、有権者はどちらかを選択するのであって、支持するのではない。このように「安倍晋三を選択する」のは正しいが、「安倍晋三を支持する」ことはありえないし、間違いである。  

 もう一度言う。「安倍晋三の集団的自衛権憲法解釈正常化を支持する」「安倍晋三の政権を、蓮舫ではなく、断固選択する」とするように、「選択」と「支持」は、正確に使い分けされるべきである。  

 さて、話を米国次期大統領問題に戻す。私の米国次期大統領論は、「米国民がクリントンを排してトランプを選択したのは、相対的に賢明だった」とするもので、私はトランプのすべての政策を支持しているのではない。トランプの内政はおおむね支持できるが、トランプの外交については、「三分の一支持、三分の二不支持」だからである。  

 つまり、トランプかクリントンかの選択にあっては、米国のあるべき内政・外交全体を基準として、両者を採点して、点の高い方を選択しても、この選択後には厳格な支持・不支持が検討されねばならない。トランプの個々の政策ごとに厳しく是非を論じ、非の場合、それをどう是正・矯正するかである。特に、米国大統領が指導し牽引する米国外交は、我が国の国益に直結するだけに、トランプの個々の政策の検討に甘さや手抜かりがあってはならない。

 日本がトランプ外交を日本に国益に合致するよう根本から是正したいのであれば、米国民の眼に見えるダイナミックな行動をしなくてはならず、“お願いベースのテーブル交渉”で済ませる《幼児外交》から日本が卒業することが絶対条件である。「米国民の眼に見える、日本のダイナミックな行動」とはまた、世界から称賛されるべき行動でなければならない。

1、プーチンのトランプへのラブコールを凍結させ、プーチンの顔を引き攣らせよう

 「アメリカ・ファースト(=米国の国内政策優先)」を掲げるトランプの外交政策は、今後は米国の対外介入主義の軍事行動をかなり制限することは間違いない。「世界の警察官」に徹した元・共和党大統領のブッシュ(息子)大統領(2001~2008年)に比すれば、顕著に相違するだろう。だからと言って、民主党最左翼オバマ共産主義者としての核廃絶への絶叫や(黒人に特有なのか)極度の怯懦からの対シリア化学兵器制裁尻切れトンボなど、オバマ流“臆病アメリカ・ファースト外交”の異常外交に比較すれば、五十歩百歩で変わらないだろう。

 とりわけ、オバマが断行した過激な国防費削減策を(注1)、《Great America》を掲げる以上、トランプは反転させるだろうから、この問題だけでも米国の衰退や退却トレンドがスローダウンされ明らかに歓迎できる。トランプが米国の核戦力の増強に舵を切れば、それは「使用」という“介入”ではないから、「アメリカ・ファースト」とは齟齬を起こさず、世界平和に貢献できる。トランプは増強するだろう米国海軍力についても同様。

 しかし、トランプの対外政策で、我が国にとっても、世界にとっても、“重大な危険”を漂わせているものが一つある。これは「警戒」で済ませうるレベルではなく、日本は断固としてこれを「粉砕」する策を謀って決行するほかない。この“重大な危険”とは何か。トランプのロシアとの関係の事である。トランプのプーチンとの異様な蜜月ムードの事である。トランプのロシア観は、日本にとって、ヨーロッパにとって、中東にとって、これからロシアの侵略と膨張を誘発していく。

 朝鮮戦争スターリンに決断させた、“ロシアの操り人形”アチソン国務長官の発言(1950年1月)。その前の共産主義者ジョージ・マーシャル(注2)の毛沢東と通謀しての蒋介石支那本土からの追放協力などが、戦慄をもって頭によぎる。そして何よりも、スターリンに魅了されたフランクリン・ルーズベルト大統領を思い起こす。ルーズベルト大統領は、1945年2月8日の僅か30分の会議で、スターリンが提案した“悪魔の(対日)ヤルタ秘密協定”を一字も一行も異を唱えず、そのまま了解した。

 トランプは、「第二のアチソン」ではないのか。トランプは「第二のジョージ・マーシャル」ではないのか。トランプは“ルーズベルト大統領の再来”ではないのか。等々の不安は、2016年5月に「トランプが確実に米国大統領になる」「トランプの米国内政は、クリントンより百倍以上アメリカを益する」と確信する前から、ここ一年間、私の脳裏から消えた事はない。

世界に“プーチンの操り人形”が二人いる。反・国防主義の安倍晋三と“外交音痴”ドナルド・トランプ

 リトアニアの首都ビリニュスに、トランプが共和党候補に選出された直後の5月13日頃、実に意味深長な壁画が現れた。トランプ氏とプーチン氏がキスしている縦横2㍍×4㍍ほどの絵だ。これをネットの画面で見ながら思い出したのは、松岡洋右が、1941年4月、スターリンとモスクワの駅頭でキスしている光景。

 満洲/樺太/北海道へのロシアの侵略占領を可能とする日ソ中立条約という“日本騙し”に成功した喜びの余り、スターリン“対ロ売国奴松岡洋右に抱きつきキスした。松岡に日ソ中立条約を裏で命じて締結させたのは、スターリンの操り人形”近衛文麿であった。そして、来る12月15日、山口県長門市で、国後島択捉島をロシアに貢ぐ安倍晋三も、松岡洋右と同様、ロシアのプーチンにキスされるのだろうか。安倍晋三は、松岡洋右の親族である。1941年の「スターリン-松岡洋右」の抱擁キスは、七十五年を経て、2016年の「プーチン-安倍晋三」の抱擁キスで再現されようとしている。

 こう考えながら、もう一度、ビルニュスの壁画を眺めていると、トランプのところを安倍晋三に置換えた“プーチン・安倍のキス抱擁”の壁画が日本のどこにもないことに気が付いた。日本には愛国者が完全に消滅して一人もいない。

 プーチンは、ロシア民族の典型的な超エリートで、国民弾圧・監視を担当する巨大官庁・KGB第二総局の、その上級将校の出である。そんなプーチンが、褒め上げる時は、籠絡の成功していない限りあり得ない。プーチンが褒める首脳は、安倍晋三とトランプだけ。とすれば、トランプもまた“ロシア工作員”はともかくロシア政商との癒着が相当なものである可能性は高く、この問題を2015年12月18日(日本時間)以来、一年間、考え続けてきた。2015年12月17日、プーチンが、モスクワでの年次記者会見の終了後、「トランプ氏は非常に個性的な人物で才能もある。ロシアとの関係についてより近くより深い新しい段階への移行を望んでいると語っている。ロシアは彼の発言を歓迎する」と、トランプを称讃したからだ。

ネオコンや共和党主流派のトランプ糾弾は、この“あり得ないロシア観/プーチン観”への正しい怒り

 NATO軽視、日米同盟軽視、ウクライナへのロシア侵略への怒りの欠如、近づくロシア侵略に恐怖するバルト三国ポーランドへの共感の欠如など、グローバルな安全保障(=世界平和秩序)維持への情熱も責任感もないトランプの欠陥をどうすれば矯正し、正しい方向に導けるかと思案していた矢先、この分野で活躍した共和党のベテラン達五十名が「トランプは危険な大統領になる」ので、「われわれはトランプに投票しない」との書簡を署名入りで発表した。2016年8月8日だった。  

 また、ネオコンの重鎮であるポール・ウォルフォウィッツブッシュ政権の国防副長官)も、同8月26日付け『シュピーゲル』紙で、「クリントン氏に投票せざるをえない」と述べた。  

 何という馬鹿をする老人達かと思った。トランプが大統領になる以上、心の中では嫌でも、表は支持して、誕生するトランプ政権の外交/安全保障関連ポストを旧ブッシュ政権や旧レーガン政権の系列にいるものだけで占有する“大人の策”を選択するのが、「世界のため」「米国のため」である。

 トランプ大統領には内政だけに専念させ、外交や安全保障問題を極力させない政権陣容を固める次善策をなぜ考えなかっただろう。もっとありていに言えば、トランプに「支持」を売りつけ、その代わりに、外交と安全保障だけは、共和党主流派とネオコンに丸投げさせる取引・契約を、彼らはなぜトランプとしなかったのだろう。ニューヨーク・タイムズその他の民主党が牛耳る既成メスメディアの罠に嵌って、“反トランプ阿波踊り”に狂騒したとしか思えない。「プーチンKGB第一総局=SVR→左翼リベラル米国既成メディアの《反トランプ》煽動報道→共和党“反露派”インテリ軍団の《トランプへの叛乱》」の構図が浮かび上がる。

 とすれば、米国の“反露派”こそロシアに操られていたのが、2016年の米国大統領選挙だったと言える。“プーチンの操り人形”は、トランプだけではなかった。“親ロシア”トランプに怒る、“反ロシア”の共和党主流派もまた、無意識に“プーチンの操り人形”になっていた。

 この事は、共和党主流派とネオコンが、トランプと真正面から喧嘩しては、トランプ政権下の外交と安全保障関連ポストを奪取・占有する事ができなくなることを考えれば、いとも単純明快なこと。例えば、駐ロシア大使には、ロシア語が堪能でロシア外交史が専門で「反露(ロシア脅威論)」のコンドリーザ・ライス博士(元国務長官がなればいいと私は祈っていた。が、躾がよくて礼儀正しい品格あるライス元国務長官は、暴露されたトランプのあの卑猥な発言に怒り、「トランプに投票しない」とフェイスブックに流してしまった(10月10日)。ライス博士こそ、米国がしてはならない対ロ協調外交に暴走するトランプを落ち着かせる最高の手綱の人材。だがプーチンは、クリントン女史にトランプ卑猥発言を暴露させて、ライス博士をトランプから“分断する”のに成功した。

2、どうすればトランプのプーチンとの蜜月を“分断”し、ロシアと敵対に誘導できるか

 こうなれば、トランプ外交の正常化に日本が一肌脱ぐしかない。だが、日本の総理大臣は安倍晋三であって、外交と国防に精通する私ではない。そこで、私が仮に安倍のポストであれば、こうするだろうという、対トランプ対策をほんのさわりだけ示しておこう。いや、逆だ。安倍の方が私になりきって、トランプ外交を正常化する義務意識を持つべきだ。そうすれば安倍は必然的に、日本史上初めて“世界をリードした総理”として、その名を内外に残すことができる。

 日本が行う対トランプ工作のgoalは、トランプに現実に発生しているロシアの侵略膨張の脅威をありのままに認識させ、日米欧の同盟と軍事力の強化を通じて、ロシアに対する軍事“包囲”網encirclementを整備していくことである。そして、これを、トランプ大統領の目の前で行い、トランプに学習させることである。

 では具体的にどうするか。

 第一は、“侵略のロシア皇帝”プーチンを精神的に孤立させる対露外交の王道を採る。それにはまず、12月15日の日露首脳会談をロシアにキャンセルさせる。こちらからキャンセルしてはいけない。プーチン安倍晋三が、「来日したいならば、《国後・択捉島を無条件で返還する》と、モスクワで発表せよ」と通告すればいい。加えて、「『日ロ平和条約は、日ロ間では日本国の領土である、南樺太と得撫島以北の千島諸島を日本に返還した場合にのみ締結される』との日本側の要求を真剣に検討すると、来日前にモスクワで発表されたい」とも、プーチンに強く通告すれば済む。プーチンの方から、急用ができたので訪日できないと必ず連絡してくる。

 第二に、安倍晋三は、リトアニアビリニュスに飛んで、2002年11月のブッシュ大統領ビリニュス演説の一節が刻まれた碑の傍で、「日本はリトアニアとの防衛協力を積極的に行う用意がある」と、演説することだ。この碑には「Those naming Lithuania an enemy will become an enemy to the USA,too.リトアニアを敵だと見做す者は、米国の敵である」と書かれている。

 日本・リトアニア防衛協力協定は、物理的なものが欠けた精神的なものであっても、NATOと日米同盟のリンケージとなり、ロシアを東西から挟撃する“包囲”をつくる。トランプは、「防衛費がGDP2%を満たさない国を米国は守らない」と発言した。同盟国間には防衛負担の公平さがあってしかるべきで、NATO加盟国の義務規定ともなっている「2%条項」は間違ってはいない。だから、バルト三国ポーランドも日本も、GDP2%を防衛費につぎ込もうではないか。この程度で、NATO参加国内と米国との絆が強まり、日米同盟の絆が強まるのであれば“安い”ものだ。  

 第三は、白人の米国大統領として初めて、軍隊経験のないトランプに、また国際政治学の素養も全くないトランプをして、「同盟とは何か」「ロシア包囲が世界平和に直結するのは、どうしてなのか」を理解させるに、最も簡便にそれが頭に入る本を一冊あげろと言えば、七十四年前に出版されたスパイクマンSpykman著『America’s Strategy in World Politics』だろう。この本を、だれか国際政治学のPh.Dを持つ者に、トランプの頭に叩き込む講義をさせねばならない。むろん今すぐ、この著をトランプに贈呈しなくてはならない。

3、スパイクマン地政学「ロシアを包囲し封じ込まずに、世界平和秩序は維持不可能」  

 以下は、トランプにどうしても理解してもらいたい、プーチンの対外膨張のパターンに関わる最小限の事実知である。プーチン侵略の第一特性は、米国大統領の政権交代期の、現職大統領のレームダックの時を狙うという狡猾なもの。第二特性は、ロシア民族五百年の“不変の行動”「軍事真空地帯をつくると、そこにロシア軍は吸い込まれるように侵入する」の通り、米国が軍事力投入をあきらめた軍事空白に、それを埋めるように必ずロシア軍は侵攻する。  

 第一の特性は、ブッシュ共和党大統領がレームダックとなり、ケニア系黒人の容共オバマが米国大統領になるだろうと目された2008年8月、プーチンは一気にコーカサス地方に兵を投入した。  

 ロシアがグルジアに侵攻して、南オセチアアブハジアを軍事力でもってグルジアから取り上げロシアに編入した世界史的侵略は2008年8月だった。この2008年8月とは、米国のブッシュ大統領が任期満了を目前にレームダックになった時。米国が“弱い”タイミングを間髪入れずに強行するロシアの侵略パターンは、永遠に不変である。“対ロ売国奴安倍晋三に国後・択捉島を貢がせる2016年12月のプーチン・安倍の長門談合もまた、ロシアに拳を振り上げる勇気はない臆病者のくせにプーチンが大嫌いなオバマが完全なレームダックとなり、プーチン大好き“外交音痴”トランプが大統領に就任直前の時期に当たる。

 話を戻す。ロシアの南オセチアならびにグルジア領内侵攻の侵略こそ、冷戦の終焉というべき、“ポスト冷戦の、その終焉”となった。1989年12月、マルタ島ゴルバチョフソ連共産党書記長)が勝手に言い出したロシア製の新語“冷戦の終焉”は、十九年をもって、再びロシアによって幕を閉じたことになる。それは同時に、21世紀が中ロの侵略し放題の“戦争=熱戦の世紀”への再突入したことを告げるゴングであった。

 2008年8月、日本人で、“冷戦の終焉”が終焉して、熱戦の時代に突入したと考えた者は一人もいなかった。日本人は、地政学的視点はむろん、国際政治のイロハ的教養すらすっかり喪失した。日本人は“度外れの国際情勢音痴”に劣化したのである。正確には、日本人は、もはや日本国の国民ではなく、世界に生きる意志と能力を去勢された“生物学的なヒト”に堕してしまっている。そして、この痴呆化した日本人に酷似した男が、米国大統領になるトランプである。この意味で、首都ワシントンの主になるトランプは、“鏡に映る典型日本人の鏡像”ともいえるだろう。

 ナチ・ドイツがロカルノ条約に違背してラインラントに進駐し(1936年)、イタリアがエチオピアに侵略し(1935~6年)、日本が“親日&反共”蒋介石の国民党政府に戦端を開き(1937年7月)、ナチ・ドイツがオーストリアを併呑した(1938年3月)、この流れが確度100%で第二次世界大戦に至らしめたが、この歴史の教訓が、日本人の脳裏にも、トランプ大統領にも、共通して、からっきし存在しない。

 南オセチア/アブハジア侵略併呑に続く、ロシア侵略の第二弾は、クリミヤ半島を一気に軍事占領した2014年3月。これほど大胆なロシアの侵略に世界は唖然としたが、ロシア民族は領土拡大と“国際孤立”の二者択一の場合は、躊躇うことなく領土拡大を選択する。

 プーチン・ロシア大統領の対ウクライナ強硬路線の実行は、米国オバマ大統領が、化学兵器を使用したシリア・アサド政権への軍事制裁を世界に公言しながら中途で投げ出し、そればかりか、その後始末をこの化学兵器をシリアに売却した“アサドの共犯者”ロシアに丸投げした2013年8月に決意されたもの。つまり、米国大統領の怯懦こそ、プーチンを、クリミア半島侵略へと誘った元凶だった。

 シリア独裁政権アサドに対する軍事制裁を、みずから世界に公約し自ら投げ出した2013年8月のオバマ大統領の米国の怯懦と逃亡は、ロシアをしてウクライナ侵略を決意させただけでは終わらず、シリアをロシアの衛星国とする、中東にロシアを進出させたターニング・ポイントの決定打となった。

 シリアのロシア衛星国化はまた、ポスト冷戦後初の、ロシアの中東における橋頭保の獲得であり、地中海へのロシア海軍の再進出であり、中東攻略と地中海遊弋へロシアが息を吹き返したことになる。これを、2008年8月から2014年3月にかけての黒海のロシア準・内海化と併せて考えると、ロシアの再膨張慣性には飛躍的な加速器がとりつけられたようなものになった。マッキンダー地政学(備考)は、「ハートランド」は中東を制しアフリカに覇権を打ち立てるとしたが、その方向へのベクトルに、今やロシアは着実な歩みのペースを加速している。

(備考)マッキンダー『デモクラシーの理想と現実』、原書房

 このアフリカへの進出とアフリカにおける覇権ヘゲモニー樹立をロシア(「第一ハートランド」)に代行して、今、「第二ハートランド」のチャイナが全力投球中である。ロシアとチャイナのこれらの急激な動向を合体して省察すれば、マッキンダー/スパイクマン地政学の賢慮と警告が、恐ろしいほどに的中しているのに愕然とならざるを得ない。

 以上に概観した、2008年以降の国際情勢の、ロシア膨張による激変を、安倍晋三も、“安倍晋三のクローン”トランプも、知ろうともしないし、対処しようともしない。シリア問題やIS問題に至っては、プーチンが米国に協力してその負担の一部を代行してくれているなどと、逆さに思い違いしている。ここに、どうしてもトランプに、スパイクマン地政学の神髄である、「《攻撃offenseこそ防衛defense》は、“勇者の美徳”でもある」を、学んでもらいたい理由がある。安倍晋三にも一緒に覚えてもらう。

 スパイクマンは、ルーズベルト大統領とは思想も目的も異なるが、米国民から(1930年代の)「アメリカ・ファースト」を一掃した功績では、ルーズベルト大統領とは双璧。だが、ルーズベルト大統領は、ヒトラー・ドイツと東條・日本を打倒した後、スターリンとの蜜月で米国が世界秩序を主導するという、自由社会にとっても米国の国益にとっても逆立ちする戦争後構想を巡らせていた。これは、トランプに受け継がれている。

 一方、スパイクマン博士は、ルーズベルト大統領とは180度逆に、戦争後に「ハートランド」のロシアを包囲encirclementすべく、米国はリムランドの日本との海軍同盟を結ぶべしと考えた。これについてはドイツに対しても同様であった。なぜなら、スパイクマンは、ユーラシア大陸が「ハートランド」一ヶ国(ロシア)に支配されればもちろんだが、ユーラシア大陸ハートランドを中心にした諸パワーの糾合であれ連合であれ(現在のロシア・支那連合は、まさにこれ)、必ず北米・南米に侵略を開始し、北米・南米はユーラシア大陸のパワーから包囲されて自由と独立を維持できないと考えた。

 ではどうするか。スパイクマン博士は、“攻撃offenseこそ防御defense”を信念とする勇者の美徳を重視して、米国の方が先制的にハートランド(ロシア)を包囲すべきであると考えた。

 この考えは、かつてウィルソン大統領が国際連盟を考案したような、米国が戦争後の世界秩序の構築を構想し、米国はそれを通じて世界に貢献しようというものとは本質的に相違する。スパイクマンは、米国は、米国自身の国防こそを真っ先に考えるべきだと考える。すなわち、“国防第一 アメリカン・ナショナル・デフェンス・ファースト”である。

 要は、スパイクマンは、世界の平和秩序は米国の国防が盤石に安泰となれば付随的に到来するから、米国民が共有する一般的なコンセンサス“米国は太平洋・大西洋でユーラシア大陸から遠隔で安全なので、米国の寛大な好意として、世界平和秩序維持に犠牲的貢献をしてあげよう”の、「介入主義/国際主義」は、米国が近未来に直面する現実の脅威を無視した甚だしい本末転倒だと、論難的に排除したのである。

 一方、米国の代名詞でもあった“勇気あるアメリカ人”とは真逆の、オバマ的な無責任と怯懦を背景にした不介入主義はまた、米国国内の世論に好ましくない負の影響を大きく与えた。1930年代の「アメリカ・ファースト 国内問題優先主義」を復活させたからだ。トランプは、この逆走オバマの狂った対外政策を継承している。トランプは、虫唾が走るほど嫌いなはずのオバマの正統継承者になっている。トランプは、この事を自覚し、猛省し、内政はいいが、対外政策では「アメリカ・ファースト」を転換すべきである。

 もう一度言う。不介入主義孤立主義と表裏一体の「アメリカ・ファースト」を、外交と安全保障から外すことにトランプは翻意しなければならない。この見解転回は、変節ではなく、オバマを断罪したいとするトランプの心意に一致する。このためにも、Spykman著『America’s Strategy in World Politics』(注3)を、トランプ大統領は拳々服膺しなくてはならない。トランプが、この古典を座右の書としないなら、真の良き米国大統領にはなり得ない。

4、“プーチンの犬”「安倍-トランプ」は、“スターリンの犬”「近衛-ルーズベルト」再来

 日米同盟を担う「安倍晋三・トランプ」コンビを見ると、一抹の不安ではなく、決定的な不安が重くたれこめてくる。両名が、1937年7月からの大東亜戦争八年間の日米首脳「近衛文麿ルーズベルト」コンビとそっくりで、ロシアに操られているだけでなく、「近衛文麿ルーズベルト」と同じく、アジアや世界をロシアの支配地とすることに全力疾走する気配が濃厚だからである。

 近衛文麿は、スターリンの命じるままに日中戦争を開始して、支那本土を毛沢東に貢ぐために日本男児五十万人の屍を支那大陸に晒した。ルーズベルトは、スターリンの言いなりにヤルタ秘密協定に合意しただけでなく、ジョージ・マーシャルやアチソンその他、数多くの共産主義者たちを後任のトルーマン政権に負の遺産として遺した。マッカーシー上院議員の捨て身の告発がなければ(備考)ルーズベルトの赤い稚児たちは、ルーズベルト亡き後も永く、米国を大きく蝕んだことだろう。

(備考)McCARTHY,America’s Retreat from Victory;The Story of George Marshall,1951.ほか。  

 そして、“プーチンの犬”安倍晋三は80%共産主義思想に染まっていることにおいて、100%共産主義者近衛文麿に酷似している。外交好きも、近衛文麿そっくりである。多少ほっとするのは、トランプにルーズベルトとの共通性がないこと。ルーズベルトは強度の共産主義シンパだったが、トランプには共産主義思想は皆無である。ルーズズベルトは介入主義だが、トランプはその反対の「アメリカ・ファースト」派である。トランプの「アメリカ・ファースト」が、その“プーチンの操り人形”性の害毒を薄めるとは、何とも皮肉である。  

 日本は国民挙げて、安倍晋三プーチンから“分断”しなくてはならない。米国も“反ロシア既成知識人階層”を先頭に一丸となってトランプをプーチンから“分断”しなくてはならない。日本が“反ロシア/反プーチン”を国是とし、米国もまた新大統領トランプに“反ロシア/反プーチン”の箍を嵌める時、真に正しい日米関係の強い日米同盟が生まれる。

 安倍晋三は日米同盟を単なる四文字スローガンとばかり軽々しく口にする抽象語だと考えているが、とんでもない間違いである。四文字「日米同盟」は、実態に基づいた実体語である。この実態とは、現在では“反ロシア/反プーチン/精強な軍事力”を共通の基盤とするものということ。安倍晋三とトランプが、“反ロシア/反プーチン/精強な軍事力”で一致する時、日米同盟は強固な基盤をもち、ロシアや中共のアジア太平洋域への侵略を抑止する。

(本稿は、11月11日の安倍・トランプ会談以前に上梓した)

 

関連エントリ

トランプ大統領は日本の好機

 

注  

1、オバマは、2011年8月に「財政管理法」を施行させ、2012年度から2021年度までの国防費を4870億ドル(日本円で約50兆円)削減することを義務付けた。議会とのごたごたで、この削減額はさらに強化され、2013年度から2021年度までの九年間で4920億ドルの削減が強制されることになった。CSISの『Building the 2021 Affordable Military』(2014年6月)を参照のこと。オバマは、“ラディカル反米屋”で米国憎悪の“非・米”人である。  

2、ジョージ・マーシャルとは、「マーシャル・プラン」で有名な、反共のバーンズを継いだトルーマン政権の二代目国務長官。露骨な共産主義者で「反日」であったことで、ルーズベルト大統領は、1939年、無能な陸軍少将マーシャルを一気に第15代陸軍参謀総長(階級は中将をスキップして大将)に任命した。朝鮮戦争マッカーサーの作戦を妨害したことでも有名。  

3、英語原著を読めない方は、中川八洋地政学の論理』第二章を参照のこと。

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